2012-09-04

- 小学校3年生の夏休み自由研究(親の視点で)-

<§1 自由研究は誰の宿題?>
 夏休みの自由研究の題材選びは,子供にとってというより,むしろ親にとって(笑)最大の懸案事項のようである.
子供が独力ですべてを行うのは,到底無理な話,高校生大学生だって満足のいくレポートを作れるかどうかは怪しいのではないだろうか?

 我が家もその季節となった.インターネットで探せば,いろいろなアイディアがあり,かえって迷う(笑).科学館の理科教室や工作教室もあれば,霞ヶ関官公庁の子供向け一般公開もある.田舎育ちの私にとっては,なんともめぐまれた環境である(むろん当の本人は自覚ない:笑).
 昨年(2年生)は,朝顔(だったかな?)の観察日記として,数枚の絵日記を書いたように記憶している(違ったかも .なんかの発芽だったかな? --- 親失格..).
 さて今年はどうしたものか...と,あるとき,セミの抜け殻をいくつか見つけ,背中の割れ方が,少しずつ違っていることに気づいたようである.娘は,はじめ,オスとメスで違うのかな?と思ったらしい.

そこで,これはチャンス(!)と思い,夏休みの自由課題として,セミの抜け殻について調べてみてはどうか?と釣ってみたら,食いついてきた. 
 以下のリンクがその宿題
本文末にも,埋め込んでみました.ただし,名前,場所は伏せています)
学校には,A3のケント紙4枚を2つ折りにして,A4で16ページ分のブックレットにしたものと,実際に採ってきた抜け殻の標本(みたいなもの)をお菓子の箱に並べたものとを合わせて提出.

<§2 方法>
 さて,問題は何を調べて,何を主張するか,である.インターネットで検索すると,「セミの抜け殻による種類と性別の見分け方」の解説がみつかった.そこでそのページをプリントアウトし,見分けられるか促してみた.
 [金沢市のページ]

種類は背中の割れ方ではなく(大人の石頭では"当然"ですませてしまうでしょう),主に触角でみわけられることに感動したようで,興味をもって一匹ずつしらべていった.触角で見分けるのは老眼初期の親にはけっこう辛い(笑).

東京都内で,場所範囲をきめて,8月中旬から2日連続,1週間おきに3クールで合計6日間,合計130匹ぐらいをあつめた.多くはミンミンゼミで,ついでアブラゼミ,ツクツクボウシがわずか数匹.1日目は夕方に全部あつめ,2日目は朝にとった.つまり,2日目は,その夜にでてきたものだけの数を数えられることになる. ---- もちろん,こんなことは,子供が思いつくようなものではなく,様々な誘導尋問で(笑),そっちへ持っていった.

親のインターネット調査では,東京ではアブラゼミが最も多いが,場所によってはミンミンゼミが優位となるところもある,ということである.オスメス比は1:1であることが常識のようだ.

そういった背景を知った大人の目からみると,このデータが意味することは
- 調査した場所は,まさにミンミンゼミ優位な地区であること.
- メスのほうが多いこと
- 連続する2日間の数があまりかわらない.数日分溜まっているのでは,と思っていたがそうではなさそう.
- ツクツクボウシ(の抜け殻)は極めてすくない.
- 第1クールが特に多い.気温などと関係するのだろうか?
など,面白い結果となっている.130ぐらいの個体数なので,定性的な統計精度としてはわるくないだろう.

 お盆に京都に行ったので,そこでも探してみた.場所による違いがあるのでしらべてみては,と(親が:笑)思ったからである.
 京都のその場所にはクマゼミがみつかり,ミンミンゼミはいなかった.

<§3 ここからが大変>
 さあ,問題は,これをレポートに仕上げることだ.実際のレポートに示したよう,以下の見出しをヒントとしてあたえ,その内容を考えさせることにした.
  1. 何の研究か
  2. なぜこの研究を選んだか
  3. セミの種類の見分け方
  4. オスとメスの見分け方
  5. 場所
  6. 観察方法
  7. 全データ・表
  8. 円グラフ (種類・オスメス)
  9. データからわかること
  10. 参考:京都のデータ
  11. 感想 思ったこと,次に調べたいこと
 ここだけ見ると,学術論文の構成とさして変わらない.こういった「考える筋道」を体験してもらうことも自由研究の利点ではあるが,同時に,自由な発想を奪うのではないか,というジレンマもある.

 ともあれ,ひとつづつ,まず,対話のなかで質問に答えさせるように誘導して,それを下書きとして書き下させるのだが,これがまあ大変(笑).
 例えば,京都のデータ.「場所による種類の違いを調べてみたかったから」というところにもっていきたかったが,断念(笑).「京都にクマゼミがいるかどうか知りたかったから」という発想から抜けない.調査時は,クマゼミがいることを知らなかったはずなのに,結果をみてしまって,その後時間がたって,夏休みが終わる直前に(笑)レポートに書こうとすると,思考の筋道がもう混乱してしまっているのだろう.
 抜け殻を取ったその場でメモ,下書きをさせることが重要だ,と感じた.

 さらに問題なのは「感想」.単におもしろかった,楽しかった,という「子供の純粋な気持ち」は,レポートとしては「バッテン(笑)」です.ですが,そこから何を学んだか,とか,世界観,自然観が変わったか,とかそんな「お利口さん」な文章を書かせたい邪念に満ちた(笑)親心は到底通じません.

 実際,セミの鳴き声を聞いて,どんな種類がいるのか,興味をもったり,旅行にいったときに,調べてみたい,と言ったり,取っているときには,なにか一皮むけたような印象ではあったが,その時期を逃すともうすっかり忘れてしまうようだし,文章にするのはさらに困難(まあ,大人でも大変といえば大変).

 「次に調べたいこと」についても,場所をかえて調べる根拠が「ミンミンゼミの割合」と書かせたかったし,そんな相談をしていたのだが,いざ書くときになると,いつのまにか,「ツクツクボウシがみつかるかどうか」にかわって,そこから発想が離れられない.--- 終わりのほうで,ツクツクボウシをみつけた喜びが強すぎたのかもしれないけれど..... この部分は,読書感想文が苦手なことと共通するように思える.


<§4 親の立場での一考>
 このような親による娘の観察記録から,自由研究を「研究らしく」行うのに必要な素養と能力が見えてきたように思う

(1) 背景:まず, 親は,子供が研究背景を知らない,ということを認識しておかないといけない.研究背景がないと,動機や方法論がはっきり決まらないのは確かだ.しかし,背景がない状態で,あれこれ考えさせるのは,子供の論理的思考力や想像力をはぐぐむよい機会なのでは,とも思う.

(2) 調べ物:インターネットで調べれば,今はすぐに回答が転がっている(玉石混交).親が調べてあげればあっという間,最短距離である.いわゆる「情報教育」も導入され,子供でもやりかた覚えればすぐやれるかもしれない.はたしてこれは好ましいことなのだろうか? 以前は,百科事典や昆虫図鑑で調べていたでしょう.一つのことを調べるまでに,その途中で,いろいろなページを眺め,関心を持っていった記憶がある.時間はかかるけれど,それで得るものも多いだろう.

(3) データの見方:どこに着眼するかは,洞察力を養う訓練になろう.対話式でうまく誘導していってはどうであろうか..

(4) 算数:グラフにしたり,パーセンテージを出せるようになりたいものだ.この自由研究では,近い値にまるめておおよその割合で円グラフを書かせた.百分率や割合の概念が定着していれば,電卓を使わせるのもいいのかもしれない. 

(5) 線やグラフ:我が子に限らず,この頃の子供は,まだ表の罫線や円グラフなど,スムーズには書けないと思う.親のほうがついイライラして,かわりに罫線だけ引いてあげたりしがちではないだろうか? 物差しで線を平行等間隔に引くのも大事な勉強だ,と腰をすえて見守ることも必要だと思う.

(6) 文章力:思ったことを論理的に表現できる能力が必要.このページで「何を主張すべきか」ということを把握して書かないと,思いついたことばかり書いて支離滅裂になってしまう.一言感想文や日記がいい練習になるかもしれない...が,苦手な子はその練習自体が苦痛....

(7) 漢字:3年生になって,習ってない漢字はたとえ知っていても書かなくなってしまっているような気がする.1~2年のころは,いろいろ知りたくて,自分で辞書をひいたりして楽しんでいた.今は「書ける?」と聞いても「知らない,どう書くの?」ではなく「それはまだ習ってない」と返ってくる.新しい漢字に出会った時が,それを学ぶチャンスだ,ということを意識付けることが重要に思える.(なんといっても母国語なのですから....)

<§5 おわりに>
 自由研究は,子供のため,というより,親が子供の全体的な達成度(=現実:笑)を知るいい機会でもあるのかもしれない.通知表の成績評価は,その学年その科目における相対的な達成度の指標なので,一つの課題を仕上げるのに(いわゆる「生きる力」),個人個人の能力のバランスの中で,どの項目が不足しているのか,知る機会はほとんどない.我が子の場合,他の項目にくらべ,(6)の文章力がかなり不足していることが,あらためて認識された.


<あとがき>
 これまで記したよう,いろいろ思うところはありますが, ただまぁ,興味をもって楽しく調査したこと,最後まであきらめずにがんばって完成させたことは認めてあげたいところです ----  親心として
 (それに他の子の課題をとりあげて評価して,いいたいこと言うなんで,とてもできませんから,ありがたいといえばありがたい --- 思った時に書き記しておかないと,記憶が薄れますからね...私も...)

 ちなみに,子供は夏休みでも,親は仕事があるので,お盆休みや週末を何日も費やして,付き合い,やっとここまで,って状況でした.完成は始業式前日の夜10時過ぎ頃.「完成日を書きたくない!(笑)」ってことで,8月ってことに.マンガにでてくるような夏休みの宿題騒ぎでした (^_^;) .       (終)

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追記(2014.8): セミ自由研究の続編ともいえる, 
- 小学校4年生の夏休み自由研究(親の視点で)- 
http://plasmankado.blogspot.jp/2014/08/blog-post.html
実施より1年遅れになりましたが,まとめてみました.セミの鳴き声の周波数にも着目(...するように「親が」話題を誘導した...). 

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