2012-11-20

東電のプラントデータ追加公開について

11月17日の福島第二原発(2F)モニタリングポストデータの「公開漏れ」がNHKの報道により指摘され,11月19日に早速更新されました.これにより10分毎の2Fの空間線量率のデータが公開されました(詳細は前のブログ).(注: 誰もが利用できるデータ公開のページの数値データからは漏れており,実際利用されなかった,という意味で,本ブログではこのように記載しましたが,意図されたされないによらず,実質未公開であったに等しいと思っています(未公開状態).)

しかしながら,3月16日の放射性物質の放出原因は未解明であり,できるだけ多くのデータから推察せざるをえないのが実情です.

東電は2012年5月に「福島第一原子力発電所事故における 放射性物質の大気中への放出量の推定について」という報告書を公表しました.そこでは8:30頃の福島第一原発(1F)3号機からの白煙と原子炉格納容器圧力の緩やかな低下傾向から,3月16日の放出は3号機由来であるとの見解が述べられています(p.9 表8).

今年の8〜9月頃,東電がDIANAコードによる解析に用いたであろうと思われるデータの出力図に疑問を感じました.p. 26に3月16日の分があります.これによると,どうも,これまでに私が集めて検討していたデータには載っていない点が存在するのに気づいたのです.はたしてそれが誤植なのかどうなのか,わかりませんでした...そこで,前のブログに述べたよう,9月末に福島のテレメータのデータを検討したところ,3月16日の正午頃には南側で空間線量の上昇が確認されており,データが存在するにもかかわらず公開漏れになっていた2Fの値に気づいたのです.

そこで,記載されているp.26の図を取り込み,東電のホームページで公開された数値データとスケールをあわせて重ねたのがここに示す図1です(この1枚の作業でも一苦労でした....).16方位をサイン,コサインで表現した1Fにおける風向きも示しています.11月19日に更新された2Fの空間線量もスケールを100倍にして載せています(1Fとあわせるためですのでご注意).
図1. 東電の2012年5月の報告書とこれまでHP上で公開
されていた数値データ,および11/19, 20に追加公開
されたデータを重ねた図.風向きは1Fの16方位.




東電のプラント関連パラメータ[ http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/pla/index-j.html ] にて,11/20に新たに追加公開された3月16日の1F2のプラントデータ(pdf, csv)は2点あります.これがまさに5月の報告書のp.26の図のみに,存在していた2点にあたります(図1中new1, new2で示す).いずれも,変化の傾向(データ欠落部を錯覚して直線で結んでしまう)よりも上に飛び出た値です.これが意味するところは,「その点から元の傾向に戻る時には,格納容器から気体が放出されたであろう,」ということです.ただし,どの時点で圧力が上昇したのか,あるいは上昇下降を繰り返していたのかは肝心の部分のデータが欠落しているのでわかりません(図1の[?????]部分).
 この報告書の図上の点の存在(データ公開ページには掲載無し)をもって,「公開していた」と言えるのか(11/20の東電の会見でそのように説明されたようす),あまり納得いかないですね...

特に正午頃の2号機の格納容器圧力データ(new2)では,400 kPa(4気圧)から40 kPa (0.4気圧)に低下しています.3号機の格納容器圧力の減少は3気圧から2.3気圧へゆるやかです.どちらが主要な放出かはもっと詳細に検討しないといけないのですが,1Fの空間線量変化(昼前後は陸に向けた風によってモニタリングポストに運ばれたと推測できる)は激しいので,いずれか,あるいは両方の格納容器で断続的に「何らかの放出現象」が起こっていたようにも推測できます.

風向きも変化していますが,そもそも連続あるいは断続的な放出がないと広い地域で風向きに敏感に応答することもないし,上昇量が大きいので,実際にその時刻に放出されたのではないかと疑われます(推測).

 更新された2F空間線量率の0:50頃の上昇は降雨時に放射性物質が土壌に沈着したものように見えます(推定:ピークのない崖のよう).10時頃のものは,そうではなく,放射性プリュームが通り過ぎた状態のように見えます(ピークが短時間で過ぎ,その後の放射線量があまり上がっていない).時間的には2Fの空間線量率と1F2号機の格納容器圧力にはあまり相関はなさそうです.むしろ,正午頃の格納容器変化は,1Fにおける空間線量の上昇と(偶然か必然かは不明)同じ頃のようにも思えます.その時風向きは海側に転換しましたので,2Fまでは運ばれなかったのかもしれません(推測)

8:30頃以降,1F3号機で白煙が観測されています.当時の記憶によると,放射線量が上がってないので,放射性物質の飛散ではい,と解釈したように思います(あいまい)が,データをみると,風向きが南・海向きだったので,1F3号機から西側1 km離れた場所では観測できず,むしろ2Fを通過したのかもしれません.陸向きの風になって1Fでも観測されるようになったと.------ このように考えると原発のモニタリングポストは,海上にも設置しておかないと飛散状況が把握できないでは,とあらためて強く思います.

3号機水素爆発,2号機の圧力抑制室の破裂音(推定)後もところどころデータが存在しているので,(絶対値はともかく)2号機格納容器圧力の上昇値は計器故障というわけではなさそうです(憶測).できれば,この間のプラントデータ,あるいは作業記録等が存在しないか,よくよく確認してほしいと思っています.

(2012.11.20 記)----  「推測」,「推定」が多くすみません.実際,少なくともデータがないと結論つかないのが現実です.....

11/20 東電の会見についてのまとめ(見つけたかぎり)
http://togetter.com/li/410682
http://togetter.com/li/410381




2012-11-18

東電の未公開データについて

2012.11.17 19時のNHKのニュースで東電に未公表データがあり,その未公表部分に空間線量率が大きく上昇していることが報道されました(NHK「かぶん」ブログ).もともと原子力・放射線が専門ではなかった私がコメントさせていただくにいたった経緯を含め,補足いたします.

福島第一原発(1F)の空間線量率は3/14の夜から16日にかけて,大きく4回上昇しており,その度に有意な土壌への放射性物質の沈着が観測されています(一度上昇して下降した後,ベースラインが大きく上がり,主にヨウ素131の半減期に従って減衰していっているようです).
-図1.  1F, 2Fの空間線量率(東電公開分)
- 今回入手された2Fのデータ
- 1Fでの風向き16方位をsin, cos成分で表現(オススメ)
*3/15の2Fの元データ(多分私の)ミスあり訂正(○部分)。

9月末頃,2012/9/21に福島県が公表した原発周辺25か所で測定された震災当時のモニタリングデータ(テレメータ)について記者さんから連絡があり,それを見てみました.
http://www.pref.fukushima.jp/j/post-oshirase.pdf
それには福島第二原発(2F)のグラフも含まれていました.私は当時16日の放出に感心があったので,既存の公開データと重ねてみたところ,公表されていなかったデータ部分(データがないものと思っていた)もグラフに描かれていることに気づきました.しかもその16日には空間線量が大きく上昇しています.その頃は南北でいうと南向きの風でした(1Fでは10:00より海から陸への風に)ので,その風上にある1F由来のものである可能性が高いと思われます。

風向きの16方位は,sin成分, cos成分にわけて表示すると,(なれれば)風のイメージがつきやすいと思います(手前味噌で恐縮ですが,オススメです).角度はx軸,すなわち陸から海に吹く方向を0度にとります(中高生でも直観が働くように).

データは間が抜けていると,つい空いた点を直線でつないでしまいがちです.しかし,たとえば現象が起きるタイムスケールが1時間だとすると,数時間とんだデータ点を結ぶのは慎重におこなわなければいけません.実験物理の基本なのですが,つい見逃してしまいます.炉内のどんな事象があって,それがどのような原因で放射性物質の飛散につながったのか,これは,突然日常を奪われた近隣住民の方々にとっては特に感心のあることではないでしょうか.

まだ他にもいくつか,得心のいかない部分があります.もう事故から1年8ヶ月もたっています.一刻も早く抜けているデータがまだあるなら,公表してほしいと思います.

特に,本件については,3/16前後の2号機,3号機の格納容器圧力の細かなデータ,および当時の運転記録,現場で作業されていた方々の記憶が鍵になると思います.16日の放出は,3号機の格納容器圧力が緩やかにさがっていったことと,8:30頃の3号機建屋からの蒸気を根拠に,3号機からの放出と推定されているようです.しかし,1Fでの空間線量の時間変化は大変激しく,より密な測定データが望まれます(2号機もよく見るべきです).

一般に,
  - 放射性物質(放射性プリューム)が通過すると上がってすぐ下がります.
  (希ガスであれば沈着しません)。
 風にのって伝搬していきます.
  - 雨がふっているところにプリュームがくると,ピークのない崖のような上昇になります.
 - プリュームが漂っているところに雨が降ると,雨にあわせて線量率が上昇し,一部沈着します.
 みたところ,16日の2Fでの急上昇は希ガス成分が主のように思えます(推測).

図2. 2011/3/16の2Fでの空間線量の変化
(公開分およびNHK報道分)




実は以前にも似たことがありました.2011年5月末頃に原子炉の詳細なデータが公開され,SRV開による減圧操作と南側の放射線量の変化に強い相関を見出すことができました.それ以前のデータからはまったく想像もできないようなことでした.

その時は事故時の混乱など,いろいろな経緯があって,公開が遅れたのだろうと思いましたが,今はもう1年8ヶ月もたち,東電でもDIANAコードを用いて当時の分析をされてきているのですから,当の東電にとっても必要かつ重要なデータのはずです.今回は,正直,強い憤りを感じました.このために,どのくらいの住民の方がその日空間線量が急上昇したことを知らずにおられたのだろうか,何人もの研究者がミスリードされたのだろうかと....


私自身,今現在は本職(プラズマ・核融合)が立て込んでいて,なかなか今現在,データの分析に手がまわりません(能力不足,要領悪さは時間でカバーするタイプと思ってますが,もう飽和状態に...).私でなくとも,若手の研究者であれば(もちろん若手でなくてもいらっしゃると思いますが,概してそうかと),このようなデータ処理は得意な人が多いと思います.事故調査委員会に,重鎮の先生方だけでなく,データ分析をやってくれる若手実働部隊が積極的に登用されれば現象の解明につながると強く思います.もちろん若手が未熟なのは当然ですが,分野の将来を担って立たんとする人材をこういう責任のある実践の場で育成することも重要な責務に思います.

      (2012. 11.17-18 記)
関連ブログ:http://plasmankado.blogspot.jp/2012/09/ayearhalf.html
余談:放送局のグラフィックの技術,ホントに羨ましいです.


----------------------------------------------------------------------
追記(11/18):
 データとしては当時から存在していた,という情報をいただきました(@nogucci 様).
  http://twitter.com/nogucci/status/269963721328185344
 「経産省「地震被害情報(第26報)(3月16日14時00分現在)及び現地モニタリング情報」
 http://www.meti.go.jp/press/20110316010/20110316010.html  の   
 http://www.meti.go.jp/press/20110316010/20110316010-3.pdf
ファックスのようです.私自身は東電,文科省,自治体の数値データを見ていたので,ノーマークでした.pdfからデータを移し替えるだけでも四苦八苦していて....
 東電と保安院の報告は目を通していましたが,正直,その報告書内の数値までは手が回りませんでした.やがて本業がまわらなくなってきて....
 当時はデータの管理体制が混乱していたであろうことは想像に難くないですが,その後のどこかの時点で,何かの機会で,どこかの機関(人)で振り返ってチェックできていればよかったのかもしれません(自戒を込めて).
----------------------------------------------------------------------

追記(11/20)
   11/19に東電の2Fのデータが刷新されたようです(まだ私のデータベースは更新してませんが).
大変迅速に対応されて,よかったと思います.公開ページにはすべて記載されていると(どうしても)思い込んでしまいますし,新たにに解析を始める人たちは,このページからスタートするわけですので,他にも抜けているデータないか注意いただくことが重要と思います.私も注意したいと思います.
 本ブログの導入に用いた図1のデータで、5/15早朝の2Fのデータが(おそらく私のミスで)明らかにおかしい部分がありました(PDFからのコピー時なのか,いまとなっては検証不能).○部分で示しています.差し替えさせていいただきました.あらためて時間をみつけて再度クロスチェックしたいと思います.
 なお,福島テレメータの数値データ公開,東電のデータ更新は上述の記者さんの働きかけに負うところが多いと思っています(... て言っていいのかな? と思いつつ....).