2017-01-15

- 小学校6年生の夏休み自由研究(親の視点で)- 振り子の等時性の破れ

これまで,
- 小学校3年生の夏休み自由研究(親の視点で)-
- 小学校4年生の夏休み自由研究(親の視点で)-
セミの研究での(親と子の^^)奮闘について執筆してきた.
5年生では学校で習った円周率を理科的な課題にして,
- 小学校5年生の夏休み自由研究(親の視点で)-
のように与えてみたのだが,先生が「理科的」とはみてくれず,コンテストに出してくれなかったと悔しがっていた(笑).

そこで,小学校自由研究としての最後となる6年生としては「100%理科^^;」で行きたいらしかった.候補としては水溶液で何かやりたい,,,などあれこれ考えていたが,(親の目からみると)なかなか見通しが立てられていない.もちろんそれはそれでいい,という考え方もある.

<小学校で習うこと>
 ちょうど,5年生の終わり頃に学校で振り子について習ったようだ.振り子の周期は弦の長さでかわり,質量や振幅にはよらない.いわゆる「振り子の等時性」である.

 大学以上の物理では,この振り子の等時性は小振幅のときの近似であることを学ぶが,これについては,時々インターネットで話題になる.小学校の実験で等時性の破れが見出されたとき,それをどう生徒につたえるか,ということが論点に思える.

 そこで,「小学校では周期は振れ幅によらない,と習うが,理系の大学生以上なら,実はちょっとだけ変わるってことを知ってる.証明してみる?」とけしかけた(笑).自分でも水溶液実験をどう組み立てるか決めかねてたようすで,だんだんその気になってきた(笑).

<小学校の教科書>
 小学校教科書(大日本図書)ではどのように習っているのか見せてもらったら,
1) 予備実験をさせる.
2) その結果周期の違いの原因は「振れ幅」「長さ」「重さ」があり得ると提起.
3) 本実験
 実験1: 振れ幅15°と30°を比べる
 実験2: 長さを 100, 25, 50 cmで比べる 
 実験3: 金属の玉,木製の玉,ガラス玉で比べる
となっている.
 測定方法はストップウォッチを用いて10往復を5回測って平均をとるように指示されている(これでは残念ながら精度がでない).

4) 実験の結果,下図のように結果が与えられている(やや不満..)
大日本図書 小学校5年生理科 p.67
 [引用元:大日本図書 小学校5年生理科 p.67]

5) 資料としてガリレオの「振り子の等時性」発見にかかわる逸話が掲載されている
 (人物を関連させるのは記憶の定着にも一般教養にもよい)
6) 手作りのメトロノーム (いい工夫)
7) 発展編:連成振り子 (なかなか高度だ)
8) ふりかえり.

文科省 小学校学習指導要領解説 (web) >
小学校学習指導要領解説 理科(pdf)(平成20年6月)の該当箇所をみると,
p.55
 「ここでの指導に当たっては,糸の長さや振れ幅を一定にしておもりの重さを変えるなど,変える条件と変えない条件を制御して実験を行うことによって,実験結果を適切に処理し,考察することができるようにする。その際,適切な振れ幅で実験を行い, 振れ幅が極端に大きくならないようにする。また,伸びの少ない糸を用い,糸の長さ は糸をつるした位置からおもりの重心までであることに留意する。さらに,実験を複 数回行い,その結果を処理する際には,算数科の学習と関連付けて適切に処理するようにする。」

との記載があり,大振幅は想定していない(させない)ように読み取れる.

<問題点>
(1) ひとつの問題は,児童が自主的に大振幅で行った場合にどう対処するか,ということであろう.
仮に先生から,「あまり大きく振らないように」と指示されたとすると,
--- 言われた通りに従う →  我が子はこっちかな?
 から
--- 隙を見て大振幅でやってみる → 私は絶対こっち(笑)
 まで,子供の対応は様々だと思う.

(2)もうひとつの問題は小数点をどこまで扱うか,というところである.
幸い,平成10年改訂版(旧課程算数)→平成20年改訂版(新課程算数
の改訂で,円周率が「3.14,目的に応じて3と配慮」→ 「3.14」(へ戻った?)ことが話題となったが,むしろ小数の計算の
「1/10の位までの小数の計算(5年)」
→「3年で1/10の位,4年で1/100の位以下の小数点(計算は1/100まで)」
の改訂が重要であろう.なぜなら,振り子の実験で必要な精度は1/100の桁以下に現れるからである.

実際,振り子の等時性を実験的に見出すことはさほど難しくはないが,小学校となると測定精度や再現性の問題が浮上する.


では,学習指導要領の平成10年改訂版(旧課程)と平成20年改訂版(新課程:現行)では,扱える誤差の桁がかわってくるとの指摘がなされている.

=======================自由研究内容===================
さて,本題に入ろう.......

<実施の準備>
さて,6年生ともなると,親の負担(笑)はずいぶん減ってきた.ただし,資材調達については子供では無理なので,ホームセンターに行って物色する(親も装置を思案しながら探すのだが,これが実は楽しい・・・笑).

ポイントは2つ
- 測定精度を上げるため,長寿命の振り子を作ること
- 大振幅に限定して測れるようにすること
これについては,誘導尋問をしながら,必要性を理解させた(つもりだが,,,,)

長寿命の振り子は,いろいろな方法があると思うが,"普通の"小学生の工作としては敷居が高い.そこで,長さ,材質,重さを変えて長寿命となる条件を洗い出す方針とした.

装置は,角度を正確に測ろうとすると,分度器を設置するには,中心の精度や振り子平面の回転で100周期程度自由に触れ続けるようにするのは難儀である.そこで,立体感覚のトレーニングにもなるかと思い.角度を測った糸を空中に2ヶ所張り,両者が重なってみえるように移動することで,2つの糸がつくる平面上に,目と振り子の初期位置を合わせる方法を提案した.廊下を糸だらけにして,なんとなく楽しそう(?)であった.角度の測定には建築現場で梁などの角度測定に用いる工具を採用した.

装置図


<実験方法>
測定方法
1- ストップウォッチについては,スマートフォンのラップ機能付きを用いた.100周期測ればかなり正確になるのだが,数え間違いを防ぐために,ラップが役に立つ.

2- 研究としては,さらに一工夫必要だろう(と親は考える^^).そこで,教科書のメトロノームの発想だが,より精度を上げるため,デジタルのメトロノームで周期をチューニングする手法を提案した.

メトロノーム周期








<実験1>
- 分銅(インターネットでそこそこの精度のものが安く買える)を使って,重い方が寿命が長い
- ワイヤーロープのほうが糸よりも寿命が長い
ことが見出された
ワイヤー拡大

こうして,ワイヤーロープを使い,重さ100gの分銅

<実験2>
- 長さと周期についてメトロノームで精度よく測れることを示す.長寿命の振り子が役に立つ.

解析
- やや小学生には高度すぎるが,周期を2乗したものでもグラフをつくってみるようにやらせてみた.


結果はかなりいい感じであった.実験2で,長い振り子の場合にメトロノームの誤差が大きかったが,これは手法が不慣れであったのと,テンポが遅いときのチューニング精度によるところが多いだろう.これには2倍速,4倍速でチューニングすればよかったであろう(本人の理解次第).

縦軸の単位の間違い(正しくは秒^2 )に気づいたのは,コンテストから返却されてきた後だった.最初は意味がわからない様子で怪訝な表情であったが,「面積の単位はmの2乗と書くだろう?」というと,ハッと青ざめていた.いい教訓になったであろうか(親の思惑^^).

比例の計算は習っているので,関係式 周期(秒)x周期(秒) = 0.41 x L [cm] と求めた.(--- 実は係数1桁間違ってて,正しくは0.041).小学校の基礎学力(計算力と検算力)大事ですね(笑).)

さて,肝心の振り子の等時性の破れはどのようになっただろうか.

<実験3>
- 振れ幅の依存性.これにはメトロノームが本領発揮.長寿命振り子でも,時間とともに振幅がだんだん小さくので,大振幅に限定することができない.しかし大振幅振り子にメトロノームのテンポをあわせる操作により,何度も振り直しが可能である.
結果を示す.
 

5%程度の「等時性の破れ」が確認された.ただし,子供はそれを「誤差」と表現している(近似値からの逸脱の概念はまだ難しい).

 図のエラーバーについて,縦はメトロノームの読み取り0.5をプラスマイナスしたときの周期,横は測定中の振幅の変化(概ね15°)を考慮してはどうかと促した.
奮闘の甲斐あってか,コンテストに出してもらい,おまけに賞をもらうことができた.
(昨年の雪辱を少しは果たせたことだろう;笑)

余談だが,学校の先生に「(違いは)測定誤差の範囲だ」と言われたらしく,怪訝な様子であったが,データの信頼性を主張するほどの甲斐性はないようだ。先生は賞をもらったことにビックリされただろうか(^^).

ご興味のある方のために,全24ページPDF(724kB)を掲載. [http://bit.ly/2jj0fHA ]

展示されている作品を見に行ったが,入賞しているものは,かなりの力作揃いであった.
本作品について,厳しいことを言えば,
- タイトルをもっと工夫をすべき.(提出前に言ってみたものの聞く耳もたず;笑)
- グラフが鉛筆書きで薄くて見にくい(視覚に訴える重要性を実感してないようす).
- 感想部分の記述がいまいち(苦手意識が強く,筆が進まない様子...).

など,まだまだ改善の余地はあるだろう.
(夏休み最終日に夜中までかかってやるから.....笑)

====================ここからは補足======================

<大人の解析>
周期 T = 2π sqrt(L/g)なので, グラフから求めた 比例係数0.041 (SI単位なら4.1) から計算すると 4.1 = 4π^2/g より,重力加速度g = 9.6を得る.

 値としては,やや不満(笑)なので,娘が測定したデータを数値でもらって,直線からずれた部分を除いて直線フィットし,重力加速度gを求めてみた.

結果
  y = a + bx
= 0.075332 +/-  0.0386
  = 0.040317 +/-  0.000518
これより,g = 9.792 ± 0.005 m/s^2 であった,真値は9.80665.. m/s^2なので,かなりの精度ではないだろうか.
    x切片は - 1.87 +/- 0.27  cm (エラーはΔ(b/a)から出せる)
分銅の中心から測ったので,重心の取り方は考慮したつもり.もしかすると上部の固定部分の軸が少しぶれていたのかもしれない(実効的に糸が長くなる;推測).もちろんこういった解析は小学校自由研究の範囲外.高校生くらいでパソコンつかってやってみると面白いだろう.

次に等時性の破れについて,理論曲線と測定値を比較した.


実験値は15°のときの値に対する比である。実験値は理論値(同じく15°で規格化;緑実線)ほどの値が得られていないことがわかる(2倍程度違う).実は実験中,もう少し差がでるのでは,,,と感覚的に思いながら手伝っていた.ズレを認識できたのは37.5°(45°スタートで,30-45°の範囲の値としている)なので,その理論値との比をとっても本質的な差(依存性)は埋まらない.これについては私にとっても今後の課題となった...

理論式の楕円積分の近似計算については数値計算サイト
  http://www1.bbiq.jp/math7557/Elliptic-Integral.html
などでも確認できる.

<総括>
 小学校の実験では15°と30°であったようなので,この実験とは矛盾しないらしい(娘談).しかし,大振幅で精度良い計測を行えば,小学生でも十分に等時性の破れは観察できる
「振れ幅を変えても1往復にかかる時間はほぼ等しいが,振れ幅が大きくなると,わずかではあるが1往復にかかる時間は長くなる.工夫をして精度いい実験にチャレンジしてみよう!」
 と一文入れてもいいのかもしれない(試験では「ほぼ」を入れること..かな?).

(覚書:自由研究は2015.8, 本ブログ作成は2015年末ぐらい,途中でずっと放っておいて,2017.1.15 にようやく推敲して公開)